チーズの勉強や、レストランで取り扱っている食材の生産者さんへ、訪問などで、モチベーションは確実に上がり、意識も前向きになっていったと思います。とはいえ、お店でのポジションは変わらず、でしたが(笑)
それでも、少しずつ、シェフにも先輩にも怒られることは減っていきました。私にとって一番の転機になったのは、新しく入ってきた後輩のまだ18歳くらいの若い子が、やめたいといったときでした。
まぁ、人の入れ替えが激しいのは、最初にも書きました。実際、私より先に入っていた人も何人かやめてましたし、自分より後に入った人もやめて行ってました。
ただ、この時はちょっと事情が違いました。
一つは、彼がまだまだ若くて、自分はダメだってあきらめている姿に
昔の自分姿を感じたこと
もう一つは、少しですが、レストランキノシタで働かせていただくうちに、私にもほんとに少しですが、自信とは言わないまでも、なにか、芽生えるものを感じていたタイミングであったこと
この二つが重なっていた時に、彼は
「もうやめたいです」といったのです。
やめる人間でも、突然来なくなるパターンもありますが、彼はちゃんとシェフに辞めたいといった。
実は彼がレストランキノシタに来るときには親御さんも来られて
「息子をよろしくお願いいたします」と言い残していたので、シェフもやめると言って来た時には、話をしっかしされていました。
めちゃくちゃ厳しいシェフですが、心のめちゃくちゃあったかい人でしたから、こんな時には親身になって話をしていたのだと思います。
でも、「やめたい」と、思いつめた人間は、はやり止められるものではなくて、シェフもわかったとやめることを認めました。
その時、私はなぜか、めづらしく、、というより
衝動的にですが、初めてシェフに、「私に説得させていただけませんか?」とお願いいしました。
シェフも「いいよ」と許してくれたので
彼をお店の裏に連れていき話をしました。何をどのように話したかは覚えていないのですが、
今まで逃げ続けてここで頑張るしかないって自分の想いを重ねて彼にも頑張れといったのだと思います。
何か伝わったのか、それとも彼に何か変化があったのかはわかりませんが、彼はもう一度踏ん張ると、思いとどまってくれた。
その彼の勇気がすごいと思った。
私も今まで、仕事を辞めるときには、親身になって話してくれる人もいたのですが、一度やめると心折れてからもう一度頑張ろうっとはなかなかなれなかった、、、、。辛さから一秒でも早く逃げたしたい一心で「やめる」ことを決意したのだから。
そう簡単にはもう一度頑張ろうとは思えないと思う。
でも彼はもう一度頑張るといった。
結果的には、やはりやめてしまったのだけど、それでもすごいと思ってる。
彼が結局やめてしまったとき、私はショックで、落ち込んでいたのですが。
シェフは、この出来事から私を少し見直してくれました。
これは、のちにシェフが言ってくれたのですが
シェフとしても、一度やめるといった彼と話したときに、もう引き留めることは出来ないと思ったそうです
私が、説得したいといったとき。「むだだよ」と思っていたそうです。
なので、彼がもう一度頭を下げて、働けせて下さいと言って来た時には驚いたそうです。
その時に、私の「何か」を評価してくれたのだと思います。
相変わらず、ワインの知識はつかないし、物覚えも悪くて不器用でしたが、
このころからは、私も「レストランキノシタの一員」だって思えるようになってきました。